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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)3986号 判決 1958年12月19日

原告

右代表者法務大臣

愛知揆一

右指定代理人法務省訟務局付検事

真鍋薫

法務事務官 久保田衛

大蔵事務官 恩蔵章

河合昭五

東京都千代田区代官町二番地

被告

宣光株式会社

右代表者代表取締役

中山巌

右訴訟代理人弁護土

坂普

手代木隆吉

右当事者間の昭和三二年(ワ)三九八六号詐害行為取消事件について、次のとおり判決する。

主文

被告は、別紙目録の不動産について札幌法務局昭和三十一年三月二日受付第五二二一号で被告のためされた所有権移転請求権保全の仮登記、同局同年十一月五日受付第三三六三四号で被告のためされた所有権移転登記の各抹消登記手続をすべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、第一段に主文同旨の判決を、予備的に、「被告と訴外大巻キヨとの間にされた別紙目録の不動産の登記簿上昭和二十八年十一月一日付売買予約、同じく同年十一月十日付売買契約(実は昭和三十一年二月中旬頃の売買)を取消す、被告は別紙目録の不動産について、札幌法務局昭和三十一年三月二日受付第五二二一号で被告のためされた所有権移転請求権保全の仮登記、同局同年十一月五日受付第三三六三四号で被告のためされた所有権移転登記の各抹消登記手続をすべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、次のとおり述べた。

(第一次の請求原因)

訴外大巻キヨと被告会社代表取締役中山巌は、昭和三十一年二月中旬、相通謀して、ともにその真意がないのに、大巻から被告会社に対して別紙目録の不動産を売渡す旨の虚偽仮装の行為をし、被告のため、主文のとおり昭和三十一年三月二日所有権移転請求権保全の仮登記を、同年十一月五日所有権移転登記を経た。右の各登記は通謀虚偽表示にもとづく無効のものであるから、大巻キヨは被告に対してその抹消登記を請求する権利があるに拘らず、これを行使しない。

大巻キヨは、原告に対して、昭和二十八年までに履行すべき所得税その他の国税合計金九百六十四万一千六百円の租税債務を負担しているが、本件不動産を除いては他に原告に負担する債務を弁済するに足る資力を有しないから、原告はその債権を保全するため、債務者大巻キヨの前記抹消登記請求権を代位行使して、被告に対し請求の趣旨記載どおりの登記手続を求める。

(予備的の請求原因)

仮りに前記譲渡行為が虚偽表示によるものでないとしても、滞納者大巻キヨと被告会社は、本件不動産を譲渡すれば大巻キヨに右租税債務を弁済する資力がなくなることを知りながら、差押を免れるため故意に、原告の債権を害する本件売買契約をし、前記登記に及んだのであるから、原告は、国税徴収法第十五条にもとづき、大巻キヨと被告との間の本件売買の取消を求め、被告会社に対し予備的請求の趣旨どおり抹消登記手続を求める。

このように述べ、証拠として、甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし第五号証、第六号証の一、二、第七ないし第二十二号証、第二十三号証の一ないし三、第二十四ないし第二十六号証を提出し、証人恩蔵章の証言を援用し、「乙第一号証が真正にできたことは否認する。乙第二号証が真正にできたことは認める。」と述べた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する旨の判決を求め、「原告主張の事実のうち、大巻キヨが原告に対し租税債務を負担しているかどうかは知らない。大巻と被告会社との間に原告主張の本件不動産の売買契約ができ、原告主張の所有権移転請求権保全の仮登記及び所有権移転登記が行われたことは認めるが、右売買行為が真意を伴わない虚偽表示によるものであること、または詐害行為であることは否認する。」と答弁し、

証拠として、乙第一、二号証を提出し、「甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし第五号証、第九号証、第十一号証、第十三号証、第十六号証、第二十三号証の二、三、第二十四ないし第二十六号証が真正にできたことは認めるが、その余の甲号各証が真正にできたかどうかは知らない。」と述べた。

理由

本件不動産につき大巻キヨと被告会社との間に原告主張の売買契約ができ、原告主張の所有権移転請求権保全の仮登記、所有権移転登記が行われたことは、当事者間に争いがない。

ところで、(1)甲第二十四、二十五号証(真正にできたことに争いがない)によると、大巻キヨは本件不動産を親族から横取りされることを防ぐために被告会社の所有名義とするつもりになり、被告会社の代表取締役中山巌も、真に買受けるつもりなくして、名義変更を承諾したことを、(2)甲第二十六号証(真正にできたことに争いがない)と証人恩蔵章の証言とを合せ考えると、本件不動産を被告会社の所有名義とするにあたり、大巻は、本件不動産の所有権そのものを移転する意思はなく、したがつて譲渡の対価も受取つていないことを、(3)甲第七、八号証、第二十三号証の一(いずれも証人恩蔵章の証言によつて真正にできたと認められる)、甲第二十三号証の二、三(真正にできたことに争いがない)、前掲甲第二十四、五号証を合せ考えると、大巻キヨは被告会社の印章を所持して、前記売買契約ができたのちも、本件不動産の賃貸料をその賃借人株式会社北海道拓殖銀行から受領していることを、それぞれ認めることができる。

乙第一号証は、甲第二十四、二十五号証によると、大巻キヨから本件租税債務の処理と本件不動産の管理とを任され、その印章を託された訴外増田日男が、被告会社代表取締役中山巌とはかり、本件不動産の譲渡を仮装するために大巻の印を押して作成したものであることが認められるから、これによつて前認定をくつがえすことはできない。ほかに前認定をくつがえすことができる証拠はない。

前認定の諸事実を合せ考えると、売主大巻、買主被告会社は、ともに、所有権移転の真意なく、通謀の上、仮装売買をしたものであることが認められる。

したがつて、本件売買契約は無効であり、大巻は、被告会社に対し、本件仮登記及び所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができるわけである。

甲第一及び第三、四号証(真正にできたことに争いがない)によると、原告が大巻に対し原告主張のとおりの租税債権をもつていることを、また甲第五号証(真正にできたことに争いがない)、甲第七、八号証、第二十四、二十五号証を合せ考えると、大巻は本件不動産を除けば全く無資力であることを、それぞれ認めることができる。

大巻キヨが被告に対し本件各登記の抹消登記手続を訴求しないことは、被告が明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

してみると、原告は大巻に代位して、被告会社に対し、本件各登記の抹消登記手続を求めることができるものといわなければならない(民法四二三条は私法上の請求権の対外的効力を規定したものであるから、公法上の請求権である租税請求権の効力について民法四二三条は当然に適用あるものではない。しかし、私法法規のうちのあるものは公法関係にも類推適用されると考えるのが相当であり、民法四二三条もその一であると、当裁判所は考える。この点は特に問題になつているわけではないが、理論上問題になる点であるから一言する)。

原告の第一次の請求は正当である。そして第一次の請求が認容される以上、原告の予備的請求については判断すべき限りでないこというまでもない。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新村義広)

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